しかしパン職人は、非常にあこがれの強い職業である半面、長時間で重労働であること、その割には低賃金・低所得であることなど、実際に「独立開業」を決断するためには、わからないこと、不安な要素もたくさんあります。
ここでは、今からパン屋さんを目指す人に向けて、「パン職人」とは、または「パン職人になる」とはどういうことかを考え、より現実的なパン屋さん独立開業への道を進める情報をお伝えします。
パン屋(ブランジェリー)という職業
「パン屋」とは、ホテル、スーパー、専門店などさまざまな場所で、今や米の消費量に匹敵する主食となったパンを製造する仕事です。
パン屋ではたらくパン職人の仕事はとてもハードで、朝は早く、ほとんどが力仕事と立ち仕事です。したがって、パンとパン作りが好きでなければ続けるのは難しいのが現実です。
パンには、さまざまな種類があり、人々に支持されるおいしいパンをつくるには、職人としての腕前とアイデアが必要です。そして経営を続けていくためには常に技術の向上と新しいパンを生み出していく創意工夫が必要です。
これが、一般的に言われているパン職人像です。
パン文化の国 ~フランスのパン職人~
わたしは現在、パン屋を営んでいる現役のパン職人です。そして、パン屋になる修行の途中で、パン文化の歴史ある国・フランスへ数年間パン修行に行っていた経験があります。
国内で数年の修行の後、将来日本での開業を目指し、夫婦で渡仏しました。そして、現地のフランス人と交流しながら、パンの製法だけでなく、日常の生活を通してパンに囲まれた「食生活」を体験してきました。
フランスで生活をしていると、毎朝、アパートから歩いて一分のパン屋さんに朝食用のバゲット(長細いフランスパン)を買いに行くのが普通です。
そこではパン屋の奥さん、お店で働くパン職人さんと、ちょっとした挨拶を交わします。
そして、入学したパン学校(国営)では、パン業界に詳しい先生(製パン技術はワールドクラス)と接し、パンについての歴史から、製パン技術はもちろん、パン屋の経営論まで、多岐にわたり情報を得ました。
パン学校卒業後は、老舗の石窯パン屋さんのオーナーや、そこではたらく職人さんと毎日談笑しながら仕事をしていました。
そうしたパン文化にどっぷり浸かったフランスでの生活の中で、「パン職人」のリアルな日常・人生というものを垣間見てきました。
そこで働く職人たちの仕事は、やはり日本と同じく、とてもハードでした。朝は日本以上に早く(夜中12時からなど)、ほとんどが力仕事と立ち仕事です。
日本より労働時間は少ないかもしれませんが、、圧倒的な量のパンを製造すること(パンが主食の国だから)を考えると、むしろ日本よりはるかに重労働であると考えられます。
手に職を付けた職人になれば、将来は安心か?
職人さんはそれぞれ家庭を持ち、家族を養うために、決められた時間の中で、毎日ほぼ同じ仕事を繰り返し行います。それはまさに職人という言葉にふさわしい姿でした。
パン職人に限らず「職人になる」というと、好きな仕事を黙々とこなす姿を想像しがちです。もちろん「職人」とは、手先の技術で物を作る職業の人であり、それが辞書に書いてある職人の定義です。
しかし、日本のパン屋さん、そしてフランスのパン屋さんで働く経験をしてきた私が感じた「パン職人」の姿は、そういった言葉の定義ではなく、職人という職業を身にまとった「現実の人間の姿」でした。
どういうことかというと、どちらの国のパン職人にも、あたりまえですが生活があり、家庭のこと、将来のこと、老後のこと、お金のこと、そういった生活に関する様々な問題や不安を抱えているという現実です。
これらのことは、人間が生きている限り当たり前のことです。しかし、注意しなくてはならないのは、パン職人を目指すひとが、「職人」という言葉の定義にイメージが偏りすぎて、そういった「現実の職人(人間)の姿」を見落としてしまうことです。
わたし自身パン職人になったのは、将来、手に職を付けて自分の焼きたいパンを焼きたかったからです。そして、それを仕事にして、より豊かに、より楽しく、より自由に、安心して生きていける人生を目指したからです。
しかし、才能あふれる「一流の職人」でない限り、手に職を付けた「だけ」の職人のほとんどが雇われ労働者です。いわゆる、ブルーカラー(肉体労働者)で、低所得者(年収300万以下)なのです。
厳しい見方をすれば、それが「職人」の現実です。
必要とされている、真っ当な「パン職人」
だからといって、パン屋(パン職人)という職業が、目指すに値しないと言いたいわけではありません。
わたしがパン職人を目指した時代以上に、現在は「パン(パン屋)ブーム」が到来しており、テレビや雑誌には、必ずどこかでパン特集が組まれています。
それは、おいしいパンを求める人が多く、メディアもパン特集を企画すれば視聴率・部数が伸びることを知っているからです。
それくらい、現在パンは国内で消費を伸ばし、コメ余り問題がクローズアップされる一方で、農家は製パン性に優れた小麦を開発し、生産拡大に動いています。
これは、パン業界の未来にとって明るい話題であり、将来パン屋を目指すものにとって追い風であることは間違いありません。
また、100m歩くごとにパン屋を発見できるフランスに比べたら、日本の「街のパン屋」の数はまだまだ少ない。つまり真っ当なパン職人の経営するパン屋の需要は確実にある。そう考えています。
ただ、上述のように、パン職人の「厳しい現実」も考慮したうえで、将来パン屋で独立を目指すのならば、しっかりとしたビジョンと計画が必要です。
これから目指すべき「パン職人」像
パン屋さんに限らず、お寿司やさん、大工さん、左官屋さん、あらゆる業界の「職人」が減少傾向にあります。
それは、人件費を削減するために機械化が進み、より大きな資本(お金)を持つ企業がさらに大型店舗化を計り、一人勝ちの流れができあがっていることが原因でもあります。
そんな中、こだわりのパンを焼く「職人」になり、独立開業を目指すことは、時代に逆流することであり、待っているのは、より険しい苦労の道であるようにも考えられます。
しかし、上記のように、パン業界においては、パンは国内でまだまだ消費を伸ばしています。
また、パン自体が異国の輸入文化であり、歴史も浅く、製粉にしても製パンにしても、技術面で発展する余地はたくさんあります。
したがって、素材を厳選し、丁寧によいパンを作る職人がいて、同時に質の高いサービスを提供できるお店があれば、大型店とは一線を画し、明確な差別化を計ることが可能です。
今から転職してパン職人を目指す人は、こういった時代の流れをよく読み、パンの技術だけを磨くいわゆる頑固職人(雇われ職人)を目指すことは避けましょう。
そうではなく、将来の経営(開業)を視野に入れたサービス力を持った職人、つまり集客力や販売力を兼ね添えた新しいタイプのパン職人を目指してください。
一言で言えば、作って売れるパン職人です。そのためには、どうすればよいか?
それを考えていけば、将来の夢・あこがれレベルであった「パン屋さん独立開業」を実現することができる!と確信が持てるようになります。
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